8月7日にシテ宝生和英「道成寺」の公演で主鐘後見を勤めます。
「道成寺」は登場人物や囃子方の見どころ、聴きどころが沢山あります。又、鐘についても色々な解説がありますが、シテ方鐘後見の所作は死角などあり見えにくくなってます。
今回は鐘を吊るす、落とす側にスポットをあてて紹介致します。
宝生流シテ方の鐘後見は5人
《主な役割》
主鐘後見: 綱を放し鐘を落とす最高責任 者。笛座後方に1人
鐘後見: 鐘を吊るす、操作、下ろす 等。笛柱地謡座に4人
主鐘後見
「道成寺」のシテは初演が多く、通常は宗家が主鐘後見を勤めますが、今回はシテが宗家です。
宗家の主鐘後見を勤めるのは今回で3回目ですが、綱を放すタイミングが合わないと大事故にもつながりかねない、大変な役割でとてつもない緊張とプレッシャーがあります。
鐘入り前、シテが鐘の近くを通過するのを見計らい、少しずつシテの烏帽子の高さに鐘を下ろしていきます。鐘入り直前、シテのタイミングに合わせて右足で押さえてる綱を前方に蹴り、左右の手で握ってる綱を同時に放しながら左右の手をクロスに綱を走らせ加速させます。一瞬です。
その後、鐘後見が鐘が少し浮かせ、中にいるシテが鐘を回転させます。
気絶などしてないという生存を確認します。
鐘後見
鐘を吊り上げる2人、それぞれの体を支える2人で組みます。
支える側は重り役ではなく、吊り上げる人の動きに合わせ力を入れたり緩めたりしながら、鐘後見の袂が綱と環に絡むのを直したり等、様々なサポートをします。
鐘の重さは各能楽堂や流儀により様々で80~100kg位です。舞台正面から見て左手を上げ背中側が見えるのが指揮をとり鐘をコントロールする、現場監督のような大事な役。
「道成寺」の鐘は苦悩やエネルギーの象徴ですので、鐘を吊り上げる時は大道具のセッティングではなく「型」としての美しさが必要です。
力任せにグイグイ上げると吊り上がった鐘が揺れます。短時間で揺れない力の伝え方と「型」が大事になります。
〈静寂で揺れない鐘から物語が始まる〉
又、鐘後見で大変な場面は急ノ舞から地謡途中まで(約4~5分位) 1人片膝で綱を持ってるところです。短い時間ですが握力マックスだと長く長く感じ、ズルッズルッと数ミリずつ綱がずり落ちていく感触もあり怖さがあります。
練習が出来ないので感覚は本番で覚えていくことになります。幸いこの役を何度もやってきましたので手の握り方や肘の角度、引っ張るだけでなく片方の手を押してみたりや力の配分等、色々試すことができました。
そして、鐘が落下直後に1人で綱を引き鐘を数秒間少し上げる所は最大限の力が必要です。
鐘後見4人は物語中シテの型に合わせ鐘を様々な高さに上げたり下ろしたりと役割が多いです。
物語が終わり鐘後見は1人で鐘を下ろして行きます。鐘は少し回転しながら静かに下ろしていきますが、鐘の表裏や龍頭の向きを合わせ静かに着地させます。回転が早すぎればワンクッション入れ減速させたりや、無回転状態ならば着地後に少し上げ回転を促したりと最後まで集中しなければいけません。
狂言方により向きが異なるので注意が必要です。
その他、鐘入り前にシテが烏帽子をはね、鐘の下にいったら素早くとる。
鐘を吊るすときに天井の滑車からの綱が絡んで吊り上げにくい時の対処など、滑りやすい足袋、動きにくい紋付き裃姿で様々な事を想定し備えます。
そのため、鐘後見は鐘の方向に向き正座をしております。
(8/7 公演当日は密を避けるため鐘後見の配置に変更があります)
まだまだ鐘後見の細やかな所作はありますが、「道成寺」の観賞の楽しみや発見にお役立て頂けましたら幸いです。
ありがとうございました。
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